“夢で逢いましょう” 〜カボチャ大王、寝てる間に…。]


寝て見る夢の中に誰かが出て来ると、
“それはきっと、その人があなたを想っているからだよ”
なんて言い出すお人がいて。

  想いの丈の深さが伝わって、
  姿となって見せてるんだよ、なんて

何だかロマンチックなお説が交わされの、
そこから想い人捜しとか始まったりする、
甘い甘い恋愛のお話があったりしますが。

 「その“想いの丈”ってのは、何も恋慕の情ばかりとは限らんよな。」
 「まあね。酷い目に遭わされた相手へ、
  恨みつらみの強い思念を飛ばす人もいるだろし。」
 「そういう怨念の方がきっと強烈だろうから、
  相手へも届きやすいんじゃねぇのかね。」

またそういうつや消しな話をする。

 「だってよ。
  そもそも秘してる恋だったりした場合、
  選りにも選って相手本人へバレちまったら困んねぇか?」

う……、あ・いや待て、
そういう人は想いを抱くだけで、
“届け届け”とは念じないんじゃあなかろうか。

 「そうか、
  自己完結で満足してる場合は相手へ届く必要もないってか。」

だから、そういう言い方は………。
これだから、魔界にお住まいの方々は もぉお。




     ◇◇◇



ホワイトナイツ皇国は、その領土が広大であるその上に、
1年を通して4つの季節が巡る、なかなかに表情豊かな国でもあって。
領土が広いということは、その境界線も長いということ、
すなわち、接する国や地域が多いということにもなるのだが。
それにしては、今現在の国王が玉座に就いてからのこっち、
国家同士というよな大掛かりな戦さなぞ とんと起きず。
古いもの新しいもの様々に、
国家間で結ばれた同盟をそれは大事にし、
互いが互いへ送り合った大使を丁重に遇しつつ、
つつがないお付き合いを続けておいで。
また、領地内においても、
様々な文化持つ民族や種族が混在していなくもないながら、
それにしては、習慣や宗教などの違いが原因で…というよな、
思想がらみの諍いもほとんど聞かずの、
至って安寧な政情が続いており。
土地豊かにして現役の王族の皆様にも温厚な方が多かったからという、
極めて安定を好む風潮にあったせいもあるのだろう。

そんな今世の国王陛下は、王妃様こそ早くに亡くされたものの、
二人の王子にも恵まれ、先行きもまた安泰と思われていたのだが。
選りにも選って、上の兄皇子が善からぬ妄執に取り憑かれてしまわれた。
それはひたむきに生真面目に、
心身を隙なく修養し、
先で兄上様を支えることしか考えてはいない弟殿下へ。
何が切っ掛けか、強い猜疑心を抱いてしまわれ、
どんなに誠実にあられても、言葉少なな寡欲さを示されても。
何処かに何か裏があるのではないか、
人望厚いことを盾にして、自分を差し置いて王位に就く気ではなかろうかと、
そりゃあもう際限のないほど、
疑いの目でしか見ることが出来ない身となられてしまわれて。
しまいには、そんな弟君に自分は廃されるやもしれぬと思い詰め、
ならば先にこちらから、そんな不安の種は摘んでしまえばいいのだと。
弟皇子の暗殺までも構えてしまわれたものだから。
せめて気持ちを落ち着かされるまでと、
皇子付きの重臣らから、城からの逐電を促され。
隣の国の小さな村へ、こそり姿をくらましたのが…数年前の、
そう、ちょうど今頃、ハロウィンの晩ではなかったか。


  「…でんか、清十郎様、朝でございますよ?」


そろそろ、朝晩には随分な冷え込みが訪のう時期でもあり。
それでもぬくぬくと眠れる身であることに安堵し、
次には、こんな穏やかな朝の到来を告げつつ、
やさしい起こしようをしてくれた存在を、
その視野の中に収めようとし、辺りを見回すことで、
意識も清かに覚醒を迎えるのだが。

 「………。」

ここ数日の殿下は、毎朝の起きぬけにいつも、

 「……………。」

何か言いたげな様子を醸しておいで。
元々、目覚めたそのまま勢いよくお喋りになるような、
飛び抜けて快活な方ではないものの。
それでも、お起こしした小さな侍従くんからの、
“おはようございます”という愛らしいご挨拶へ、
そりゃあ和ませた眼差しになっての、
余裕のある会釈を、ゆったりと寄越しておいでだったものが。

 「? 殿下?」

いかがしましたかと、
潤みの強い双眸を少々見張って、案じるように尋ね訊くセナくんへ、

 「…いや。」

何でもないと、そこであらためて会釈をなさる。
お目覚めの感触に、何かしら不快な引っ掛かりでもあるのだろうか。
それとも実はあんまり、深くは眠れておいででないとか?

 “…この時期と言えば。”

セナと殿下があの小さな里で出会った頃合いでもあるが、
それは同時に、
兄皇子様から これ以上はなく疎まれておいでだった時期でもあって。
ちょっとばかり不思議な顛末のどたばたが挟まって、
結果、今の落ち着いた状況へと導けているものの。
清十郎殿下にしてみれば、
この、人恋しくなる北風の吹き始める頃合いは、
そんな悲しいことがあった秋を、
つい思い出してしまわれる時期でもあるに違いなく。

 “ああでも…。”

懐ろ深くて寛容で、何より、もうすっかりと大人でおわす清十郎殿下へと、
自分のようなまだまだ幼い身の者が、気晴らしや慰めの何かなぞ、
一向に思いつけぬし、そもそも僭越ではないだろか?
お着替えのお手伝いをし、
執務の予定を告げにおいでの、執務大臣長の高見さんを招き入れ、
ではとお食事へ向かわれるのへ同行しつつも、

 “ああ、もうちょっとボクが大人だったらなぁ。”

対等になんて畏れ多いことは思わぬが、それでもあのね?
殿下の思し召しの大人っぽさ、
少しくらいは、理解も同調も しやすくなるんじゃあなかろうか。
例えば、言外に省略なされたお覚えを、
高見さんなら聞き返さずとも“御意”と正確に判断出来てしまえるように。
目線とか蓄積とかが同じくらいでないと、
なかなか ああはいかないものだろうから、
だから早く大人になりたいなぁなどと、
そんな風に、ある意味 無邪気な…だがだが本人には“切望”を、
小さな胸へ抱いていたりするセナくんなのへ、

 「………。」

この殿下には珍しくも。
相手へ気づかれないようにと、随分と気を張ってのこっそりと、
長い廊下を進みながらも、
その雄々しい肩越しに、視線を向けてみる殿下なのは どうしてかと言うと。




      ◇◇◇



空の高みは地上よりももっと寒くて、
秋の収穫が無事に済んだ地上のあちこち、
豊饒の喜びという甘い暖かさの満ちた大地を、
こちらは二の腕を摩りながら見下ろしておれば。

 「…ほぉら、だから言ったじゃないか。」

不意に襲った柔らかな霞に包まれた次の刹那、
そのまま ぽんっと弾けて痩躯を包むは、
カシミアかビクーニャか。
さほど分厚くも重くもないが、抜群に暖かな毛織りの装束へ、
それまでのただ薄いばかりなそれだった導師服が、
すっかりと入れ替わっており。

 「…余計な事をすんじゃねぇよ、さくらバカ。」
 「いたたたた…☆」

襟元を直してやろうと手を伸ばして来た、
それは優しげな美貌の連れへ、
こちらからも手を伸ばした悪魔様。
亜麻色の柔らかそうな髪を、容赦なく引っ掴むと ぐいと引き、

 「さっきのあれは気に入ってたんだ。」
 「判った判った、あのデザインに戻せばいんだね。」

彼の好きな漆黒ではあったが、
襟元や袖口に暖かそうなファーをまとわした型だったものが、
質感の暖かさは居残して、出来るだけ元の通りの、
肩章や袖口などなどにボタンが多く、
微妙に居丈高にも攻撃的な、武装タイプの導師服へと戻してやれば、
まあいっかと何とかご納得いただけたのだけど。

 《 そうか、君らがこの辺りを束ねているのだね。》

まだ少々口許を曲げていた金髪の暴君様が、
危なげなく宙空に浮いておいでの、そのまた頭上から降って来た声があり。

 「?」

あぁん?と、再び険悪そうに目許を眇めながら、
見上げて来た蛭魔の視線を躱しつつ。
魔界の住人である二人の前へ、ひらり降りて来た影が2つほど。

 《 噂はかねがね聞いているよ。
   先の大戦のおり、南の戦さ場で、
   迷える魂を山ほどお持ち帰りした、名うての死神のお二人だね?》

立て板に水とは正にこのことか、
それはそれはなめらかな口説でもって、
君たちをよ〜く知っているよと並べてくれたは。
見た目の風貌はこちらと似たような年頃の、
人に似せた格好をしてはいるものの、
微妙に鷹揚さが過ぎての個性の濃い青年と。

 《 ………。》

話は相棒にすっかりと任せているのか、
随分と寡黙な連れという二人組であり。

 「背負う気の色合いからして、ヴァルハラの住人と見たんだが。
  俺らと話しなんかしてていいのか? あんたら。」

何物へも寛容だと言いたげに、
おおらかな態度でもって接して来た彼らだが、
はっきり言って所属は違う。
人の世界より上の次界の、しかも天聖界の住人たちであるのは明白で、
その成り立ちが帯びる素養は、こちらとは真逆な光属性…と来たもんで。

 「漆黒は何物にも染まらぬが、純白はどうとでも汚れようよ。」

それだけ融通も利かんのだろうにという、
遠回しな揶揄を含めた、皮肉な言いようを突きつければ、

 《 ご心配なく。》

随分な目ヂカラのある彼は、にこりと笑い、

 《 君はその存在の半分が陽属性と聞いている。
   それに、地上に降りている格の我々は、
   ちょっとやそっとじゃあ影響を受けない、
   頑迷な覇力というのをたずさえてもいるからね。》

いきなり“自分は神の係累”だの“万能の天才”だのと
口にする馬鹿ではないらしいものの。
悪しきものへの不安はないよと、
その対象を前にしてはきはきと言い切る厚顔さは、

 「…成程、天世界の生きもんだな。」

妙に感心した蛭魔の言いようへ、

 《 …すまぬな、ヤマトはそういう育ちなのだ。》

寡黙だった相棒が、それこそ天界人としての礼儀を通したくてか、
そんな風に詫びを入れたほどであり。
悪気はなくても人を不快にしかねぬ、
とことん“俺様”なお人ってのは、どんな世界にもいるもんだ。(苦笑)

  まま、それはともかくとして。

 「天界のお人らがわざわざのお声掛けってのは、
  一体どういう料簡からだ?」
 「…妖一、省略し過ぎだって。」

居丈高では負けてはいない。
こちらさんもまた、
魔界を代表しちゃうんじゃなかろかというほどの
札付き、もとえ折り紙付きの“俺様”さんが、

  ―― 半端な覚悟でのガンつけならば、容赦はしねぇぞと

暗に含ませての挑発をすれば、

 《 いやなに。
   我らの見守る某国の身分ある乙女が、
   こちら様の若人へと、それは情のある懸想をしたのでな。》

ちょうど眼下に見下ろす格好の、
秋蒔き小麦の若い株が育ち始めている平らかな畠野原に、
何か落とし物をいたしましたとでも言いたいかのよな。
そんな調子で、実にあっさりと言い放った青年天使は、
だがだが、ここで初めてお顔を曇らせて、

 《 我らが神殿への真摯な祈りを捧げられたのでな。
   その熱心さに打たれて、想いを運んでやろうと来たったのだが。》

特に情愛だけを通じさせる身ではないのだが、
ほら、我らが守護する土地は至って平和なものだから。
そんな風に前置いてから、
導師服は基本的に似ていたが、
彼らの住まう土地が暖かいからという装束の差か、
恰幅のいい広々とした背中を半分ほど覆うマントを北風にひるがえすと、
自分の足元をぐるぐると見回して、

 《 そうか、君らが護っていた国だったから、我らの祈りも通じぬとはね。》

 「………………あ?」

いかにも感に堪えるというよな口調でしみじみと、

 《 魔界の存在は、ただただ滅びを好み、
   冥界へと誘(いざな)う魂へも、
   悲しみや怨嗟にまみれさせてから収穫すると聞いていたのだが。》

そんなところが我らとは相容れられぬ点であったはずなのにと、
これまでの思い込みというのをご披露くださってから、

 《 魔界屈指の漆黒執政官が、二人掛かりでこの国を護っているのでは、
   我らの軽やかなお祈り程度では歯が立たぬのもしようがない。》

 「……おい。」

 《 かの乙女には気の毒なれど、
   祈るだけで完遂は虫がよすぎるのかも知れぬと伝えおこう。》

 「……………。」

人の話を聞く耳持たねぇかこやつはと、
苦虫噛み潰したようなお顔になった悪魔様(地方によっては死神様)。
傍らの相棒へついついボソッと囁いたのが、

 「なあ、殴っていいのかな、こいつ。」
 「……妖一。」

その声じゃあしっかり聞こえてるよ、ああでも聞こえてないかもだなと、
困り顔のままな桜庭が、セルフ突っ込みもどきを内心で洩らしておれば。
視線が合った相手の連れが、ひょいっと肩をすくめてのそれから、

 《 戻るぞ。》
 《 何だよ、タカ。》

ご挨拶を待っておくれと言いつのる文言さえ途中のまま、
半ば強引に相棒に手を引かれて連れ去られてしまった、白の御使い様であり。

 「…何だったかな、あの連中。」

ただただ勝手に言いたい放題してったぞと、
口八丁では負け知らずだった蛭魔がやっとのこと唖然として見せれば、

 「まあ、ある種の負け惜しみというか。」

誰になのだか、一方的な懸想をした乙女の願い…というのは、
神格レベルの存在がわざわざ使者として足を運んだほどなのだからして、
かなりの権力者か巫女級の者が為したそれだったに違いなく。
だってのに通じなかったとなれば、
言い訳というと聞こえが悪いが、弁明に足る何かしら、
妨害や障害となった“強敵”を見つけたくもなろうてと。
つまりは、自分たちは何にもしちゃあいないってのに、
勝手に“ずば抜けた防御力した守護”に祭り上げられたようだという事実を、
さぁてどうやってこの“悪魔”さんへ説明したものかと。
困ったなぁという苦笑を浮かべるばかりの桜庭だったりし。


  そしてそして……


 「どうしたものかな。」

このところ、それは優しげな姿の誰かが話しかけてくる夢を見る。
どこか漠然とした印象のその誰かは、
線が細くて繊細そうな、随分と可憐な人のようであり。
温かな想いを込めて、自分へしきりと話しかけて来るのだが、
残念ながら、その内容が一向に聞き取れぬ。
そうこうするうち朝になり、
目が覚めると そこには、
それは可愛らしい侍従の君が待っていて、
眩しげに目許をたわめ、微笑みかけてくれるものだから。

 「このような不埒な目覚めをしていても良いものか。」
 「…不埒、なのですか?」

不埒を誘う存在と、言われてしまったセナには、
何をどうとも答えようがない問答であり。

 “ましてや部外者の私には、助言することさえ滸がましいってもんですし。”

せめて自分がいなくなってから始めてほしかったやりとりでしたねと、
こちら様もまた、苦笑を咬み殺すのが大変な執務大臣長だったりし。
秋も過ぎゆき、次は冬が来るのだけれど。
今年もまた心豊かに暖かく、皆様で幸せに過ごせそうですねと、
窓の外、東洋から来たとシュウメイという花が、可憐な黄色を揺らしていた。





  〜Fine〜  10.11.03.


  *お久し振りにお言葉をくださったH様へ。
   ハロウィンには間に合いませなんだが、
   相変わらずな彼らをどうぞvv

   そして、初書き同然が
   こんな変な帝黒ツートップでごめんなさい。
(苦笑)

 めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

ご感想はこちらへvv**

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